原発通信 264号2012/07/24発行
政府事故調、報告書を提出 最後の事故調報告が出ました。しかし、これといって目新しいものはないようです。この政府事故調の委員になっている九州大学副学長の吉岡斉氏が若かりし頃、ちょっと縁があり知っていたものですから、どうするかと関心をもって見ていたのです。昨年、西南学院大学で講演したというので、その講演録も取り寄せて読んでみました。その講演録を読んで、そのデタラメさと改めて知ったわけです(本通信158、159号)。 本通信159号で、【「私(吉岡氏)としてはそう簡単に再稼働させないぞという立場をとっています。過酷事故を起こさないような技術的・制度的仕組みを整備することが必要条件です」と。それに期待したいのですが、「技術的・制度的仕組みを整備」されれば、再稼働OKということでしょう】と書きましたが、やはり、「技術的・制度的仕組みを整備」されたと何を根拠にか、野田首相は「自分の責任で」といって再起動を「決断」、大飯原発3、4号機は再稼働され、現在フル運転しています。吉岡さん、「力及ばずして」なのか、残念でした。 どの事故調報告もそうですが、今現在のところ、「事実はわからない」ということだけは共通しています。アンゼン教の人たち、死んだ人はいなく、安全なのですから、現場に行って確認してきてほしいものです。「ほら、大丈夫でした」と。それができないのなら、「原発依存率40%といったらそっちを賛成する」などと言わないことです。それをしてから言ってほしいものです。電力会社=推進派=アンゼン教の信者たち。 ▶<政府事故調>規制庁に継続調査の部署設置へ 【畑村委員長は「原子力災害が二度と起こらないよう提言した。政府は真摯(しんし)に対応してほしい」と要請】 【東電の「想定外」という主張に対し、「根拠なき安全神話を前提にして想定してこなかったからに過ぎない」と批判。東電には、不十分な津波対策や組織的な危機対応能力の弱さなどの問題を解消し、より高いレベルの安全文化を構築するよう求めている】 とのことですが、そもそも、原発・原子力に対して「より高いレベルの安全文化を構築する」ということが成立するのかどうかです。言葉尻を取るようですが、「より高い」ということは、当たり前ですが「絶対」はないということを言っていることと同じです。原発・原子力は「絶対」がなければ動かしてはいけないものなのではないでしょうか。それを、今、分かっている範囲で「より」と言っても、3.11では想定外、1000年に一度などといって逃げようとしているわけで、今度(あったら困るのですが)起きたら、1500年に一度とか、今までの知見にないなどと言うにきまっています。今の知見にないことをしてはならないのです。何せ、相手が原子核・人の手に負えない代物なのですから。NHKスペシャル「メルトダウン連鎖の真相」(下記)で東電の幹部が言っているように事故が起きたら「日本がおかしくなってしまう」ものなのですから。 ▶政府事故調:「東電・政府に複合的問題」最終報告書で指摘 【東京電力福島第1原発事故を調べていた政府の事故調査・検証委員会(畑村洋太郎委員長)は23日、最終報告書をまとめた。事故が深刻化した背景には、東電の初動対応に不手際があり、政府の避難指示や情報発信などで被災者の立場を踏まえていなかったと分析。事前の津波対策も不十分で、東電や政府に「複合的な問題があった」と結論付けた。再発防止に向け、広域で甚大な被害をもたらす事故・災害には発生確率に関係なく対策を行うという新たな防災思想の確立など25項目を提言した】 ◇政府事故調最終報告書の骨子 ・代替注水装置へ切り替える時、福島第1原発では第2原発に比べ、必要な措置が取られないなど対応に問題がある ▶政府事故調:最終報告書 防げた人災と指摘 【政府事故調が重視したのは事故の再発防止で、関係者の本音を引き出すため責任追及を目的としなかった】 【慎重な表現が目立ち、疑問に答え切れていない面もある】 【報告書が突きつけた原発操作の不手際や官邸の初動のまずさなど数々の問題は、どれも適切に対応していれば、被害の拡大を防止できたことをうかがわせる】 【報告書が「問題点が複合的に存在している」と指摘するように、根は深い】 ▶政府事故調:規制当局と電力会社との不適切な関係を指摘 ◆作文を要求 原子力安全委員会は93年6月、原発の全交流電源喪失事象(SBO)に関する報告書をまとめた。 報告書作成で、安全委事務局は東京電力などに「長時間のSBOを考えなくてもいい理由を作文してください」と依頼 ◆「収拾つかぬ」 09年1月、原子力安全委員会は北海道電力泊原発3号機の安全対策に関する会議を開催。課題として「(地震や津波など)外的事象を考慮すべき」だと示され、会議での配布資料には「大地震の影響や、地震・火災など複合的な(被害)条件での評価を入れて、対策の整備に役立てていくことが望ましい」と記載した。 しかし、会議では議論されず、その後も検討はされなかった。安全委の鈴木篤之委員長(当時)は政府事故調に「本格的にやろうとすると途方もない作業で収拾がつかない」 ◆情報生かせず 保安院の担当者は政府事故調に「日本のテロの可能性は米国より低く、多少ゆっくりでも仕方ない」「対策の有効性が分からなかった」と弁明した。 * 要は、一度決めてしまったものは変更しないと。これで安全だ、大丈夫だと言ってきたことにケチをつけるのかという彼らの心理と、カネがかかるし、めんどくさいというのが実態ではないかと、この間、本原発通信を書くにあたって様々なニュースや本当に接して感じたことです。本質的には、たいして難しい問題でもないでしょう。新聞に掲載されている今回の政府事故調の内容を読んでいてもそう感じます。 ▶3・11後のサイエンス:東電の「虜」と日本文化=青野由利 【600ページに及ぶ報告書を読むと日本的と感じる点は確かにある。たとえば、「海水注入騒動」で東京電力の幹部が事故の食い止めより官邸の顔色を読むことを優先したこと。「全員撤退問題」でも、官邸の意向をさぐるような受け答えが混乱を招いた。しかし、これは、日本文化というより企業体質だろう】 【福島第1に全電源喪失のリスクがあることにも、平安時代の貞観地震による津波の大きさについても気づいていた。しかし、東電は小手先の対応しかしてこなかった。日本文化ではなく、東電の責任だ】 【過酷事故対策についても原発の稼働率と訴訟に影響を与えないよう求めた。これに対し、当時の保安院院長が「悩みどころは一致している。お互いに着地点を見いだしたい」と応じたくだりは、目を覆いたくなる】 【「虜」構造が明らかになった以上、これまでの安全評価は信頼できない。全原発で活断層の評価や地震・津波対策を公正にやり直すことは必須だ。使用済み核燃料プールの事故対策、事故時の指揮命令系統の整理、放射線モニタリングの改善、ヨウ素剤服用の現実的な対応。すぐに始めなくては間に合わない対策は数え上げればきりがない】 青野さんの書かれていること、真っ当です。 ▶社説:原発事故調査報告 原因究明は終わらない 【結局のところ、今はまだ事故検証の中間段階に過ぎない。国会も政府も、当事者である東電も、原因究明を続けなくてはならない。そのために、政府からも、その時々の政権からも独立した、恒常的な調査委員会を設置すべきだ】 【作業にあたった人々を責めることはできないが、過酷事故のリスクより経営のリスクを優先した東電の責任は重い】 ▶「耐震」「安全」 残った疑問 政府事故調最終報告 【国会、民間、東電と合わせ、主要な四つの事故調が出そろったが、本当に地震による影響はなかったのか、なぜ原発の安全規制は十分機能しなかったのか、今ある原発はどうすればいいのか、などの疑問に明確な答えを示せなかった】 【逆に調べれば調べるほど、果たして核は人間の手に負えるのかという疑問にぶつかるのではないか】 【だが忘れてならないのは、原発の危険性は、飛行機や車や工場のそれとはまったく違うということだ。核の扱いは絶対の無謬(むびゅう)を求められる】 ▶「縦割り」情報迷走 福島原発政府事故調最終報告 【◎県の広報、誤解広げる/双葉病院問題 一般住民の避難と、入院患者ら災害時要援護者の避難は別々の部署が担当したが、要援護者の担当部署は当事者であることを認識していなかった。 ▶政府事故調:原発誘致「後悔だけ」、福島の怒りと嘆き 「指摘された安全対策や非常時の対応の問題は、住民が事故前から何十年間も心配し課題になっていた。しかし東電は事故は起きないものとして取り合わなかった」。 「今は原発を地元に造らせてしまったのを後悔するだけ」 ▶NHKスペシャル 「メルトダウン連鎖の真相」 見逃された方がお早めにどうぞ。 最悪の状況だったのは2号機だったと。炉心に注水するうえでの重要なSR弁(主蒸気逃し弁)という外へ逃がす(当然放射性物質も)弁が、まともに作動しなかったとのことなのです。格納容器の圧力が高くなり、SR弁がそのため、開かなくなったということが事故後の検討で明らかになったというのです。そして、そのSR弁を作動させるためのパイプライン、70メートルもあり、しかも、耐震設計は低くてもいいCクラスだったとのことです。そこが地震で破れてしまったのではというのがこの番組の推論です。そのような構造をもっている原発、全国に26基あるそうです。 政府事故調は、地震で壊れたものはないとの見解ですが、この番組に出ていた東電幹部は、実際調べられていないので、わからないと。 3号機では、バッテリーが届かなかったと。バックヤードの問題も輸送の問題も何一つ対策を立てていなかったということです。 こういう点においても何やら、旧帝国軍隊と二重写しに見えてきます。起きないと決めたら、起きない=起きるということ自体を消去できる頭の構造が理解できません。これを「日本文化」というなら…。 ▶新安全協定、30キロ圏外も 泊防災体制 後志16市町村が対象 道、北電と連絡会 【道と北海道電力が北電泊原発(後志管内泊村)の通報・連絡体制などについて周辺自治体と締結する「安全確認協定」案の内容が23日、判明した。協定締結対象を30キロ圏外を含む同管内16市町村とし、道、北電、各首長による連絡会の設置、各市町村で放射線量などを測定する環境モニタリングの実施などが盛り込まれた】 ▶高浜原発:現地調査始まる 安全対策の実効性検証 ▶南海トラフ:大震法見直し求める 連動地震考慮を 【主査の河田恵昭・関西大教授は「これだけ連動の問題が出ている。東海地震だけが起こるという前提で対策すべきでない。防災対策の強化地域と推進地域が分かれているのは良くない」と】 ▼原子力ムラ 今日の「No problem!」 ▶アジアの原子力技術者が研修 【原子力発電所の建設を計画しているアジアやヨーロッパの若手の研究者などが日本の原子力技術を学ぶ研修が、23日から大洗町の「日本原子力研究開発機構」で始まりました】 【原子力機構が開いた研修には、ウランの埋蔵量が世界2位の中央アジアのカザフスタンや、高い経済成長を続けるインドネシアやマレーシアなど、原子力発電所の建設を計画している5か国から若手の研究者や技術者あわせて16人が参加】 【鈴木惣十所長が「去年の震災でここの施設も被害を受けましたが無事復旧しました。研修で学んだことをぜひ今後に生かして下さい」と歓迎のあいさつをしました】 ほんとうに、この「日本原子力研究開発機構」というところは何を考えているところなのでしょうか。冗談は休み休みにしてほしいと思うのですが、この世界の人間、イッテイマス。だからムラなどと言われるのです。学びに来る方も来る方ですが、いったい何を学んでいくのでしょうか。アンゼン教をかの地でどう布教するのかという布教のノウハウか。 ▶関西電力が免震棟の概要公表 最大千人収容、県内3原発に 【免震事務棟は高さ約46メートルの鉄骨・鉄筋コンクリート。建屋の総面積は6千平方メートル。事故制圧の初動要員を含め事故初期には360人の収容を想定し、120床の仮眠室を用意する。その後は最大1千人が事故対応に当たることができる。 想定する最大の揺れ(基準地震動)の2倍の裕度を確保し、福島事故を教訓に11・5メートルの津波に耐えられる高所に建設地を選定する予定。 放射線の防御策として壁の厚さは70センチとし、粒子・ヨウ素除去フィルター付きの空調設備を備え、窓の数は必要最小限に抑える。屋上にはヘリポートを完備。光通信や衛星通信システムを設置して通信・連絡手段を確保し、非常用発電機を3台置く】そうです。 いくら立派な「免震重要棟」ができても、安心できる問題ではないということです。原発があること自体がリスクなのですから。 ▼寄せられた情報 ▶原研労組がこの4月に、「再稼働反対声明」を出していました! 本日寄せられた情報なのですが、この4月18日に日本原子力研究開発機構労働組合(原研労組)中央執行委員会の名前で「再稼働反対」の声明が出されていました。「原子力研究開発機構」、もんじゅをやっているところで、毎日新聞のスクープで明らかになった「秘密会議」の常連でもあり、最近行われている「聴取会」で、なぜが当選する原発超推進派の所属する会社です。 以下、要約 【今、国や原子力安全・保安院は、停止している原子炉を「ストレステスト」なるものを実施するだけで「安全である」と強弁し、運転を再開しようとしている。 それは、基本的には福島で起きたことを見て、若干想定を変えた高さの津波や地震動でどうなるかを机上で分析する、あるいは福島で起きた全電源喪失に対する一定程度の対策が出来ているかを見るだけである】 【問題は、地震動の数百ガルの違いや津波の高さの数メートルの問題ではない】 【間違った「これで良し」の基準を作ってきた電力会社、原子力安全・保安院、原子力安全委員会をはじめとする関係者が明確な責任を取らず、そのままの地位にいてテストやテストの検証をしたとしても、全く信用できるものではない】 【「原発稼働なし」が、直ちに「電力なし」ではないことは言うまでもなく、原発を動かさないと電気がなくなるかのような発言は問題である】 【ましてや、当面の電力に対する渇望を理由に、原発を根拠なしに「安全」というのは犯罪的な行為である】 ▼日本原子力研究開発機構労働組合(原研労組)中央執行委員会「再稼働反対」の声明文 ▶トンデモナイ話 【原発への恐怖心を利用して騒ぎを大きくしようと画策する左翼団体や金持ち文化人、それに選挙目当ての政治屋どもに踊らされていることに参加者はそろそろ気付かれた方がいい】 との、産経新聞からのご忠告です。7月21日付の産経抄です。 コメントするほどもない、言いがかり、八つ当たり。まあ、産経ですから。それにしても、ここまで書かなければならないところまで追い込まれてきたということでもあります。 http://sankei.jp.msn.com/life/news/120721/trd12072103130001-n1.htm | ||